45.あなどってはいけない脂肪肝|一般財団法人 京浜保健衛生協会

京浜保健便り

45.あなどってはいけない脂肪肝

保健師便り2021.12.01 5105view

肝臓の病気といえば、肝炎や肝硬変、肝臓がんなどが知られています。では、脂肪肝は?脂肪肝もれっきとした病態です。人間ドック等で「脂肪肝」を指摘されたことはありませんか?かつては、酒豪家達に脂肪肝が多く、問題とされていました。しかし、お酒を少し飲む、あるいは飲まない人にも「脂肪肝」は起こり、それを放置していると、深刻な状態になることがわかってきました。今回は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)について取り上げます。

〇脂肪肝とは
食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足により、肝臓に中性脂肪がたまった状態が「脂肪肝」です。非アルコール性脂肪肝疾患〔NAFLD(ナッフルディ-)〕は、非アルコール性脂肪肝[NAFL(ナッフル)〕と肝臓の細胞が炎症を起こした状態の脂肪肝炎〔NASH(ナッシュ)〕の総称です。 薬物性・ウィルス性、内分泌疾患などによる二次性のものは除きます。
非アルコール性といっても、お酒を飲まない場合はもちろん、缶ビールなら500mL、グラスワインなら2.5杯、日本酒なら1合程度(エタノール換算で男性30g未満、女性20g/日未満)を飲む場合も含まれます。NAFLDのうち、80~90%はNAFLのままですが、残りの10~20%はNASHとなります。NASHを放置しておくと、肝臓がんに発展したり、細胞が硬くなり(繊維化)、肝硬変へと移行し、長い年月をかけて肝臓がんを発症することがあります。(図1)

日本では、人間ドックを受けた人の30~40%がNAFLDに罹患しているとされ、1,000~2,000万人潜在すると推計されています。その割合は、男性の方が多いですが、60歳以上になると女性も増加します。これには、女性ホルモンが関係していると言われています。また、NAFLDは肥満との関連があり、最近では、肥満の小児や若年者にも増えていると言われています。

〇あなどってはいけない脂肪肝 -非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)-
NAFLDは、肥満、脂質異常症や高血圧症、2型糖尿病といった生活習慣に起因した基礎疾患を持ち合わせていることが多いです。(図2)

脂肪肝から発展した脂肪肝炎が、動脈硬化の進行を早め、心筋梗塞や脳梗等を起こし、全身に影響を与えることが最近の研究でわかってきました。特に糖尿病があると、肝臓の細胞を硬くさせるスピードを速めるとも言われています。また、性差、年齢、肝臓の脂肪組織、遺伝的な素因、腸内細菌なども病態を促進させてしまう要因であることもわかってきています。

肝臓は、三大栄養素である糖質(炭水化物)、蛋白質、脂質をはじめ、ビタミン・ホルモンなどを代謝し、毒素を分解し、解毒する重要な役割をもった臓器ですが、予備能力や再生能力が高いので、肝臓が多少障害されていても症状は出ないことが多いです。症状が出た時には、深刻な状態に進んでいる可能性が高くなります。NAFLかどうかは、腹部超音波やCT、MRIといった画像による検査を受けないと確定できません。NASHに至っては、入院して肝臓の組織を採り、顕微鏡で確認(肝生検)しないとわかりません。残念ながら、現時点ではNASHと診断されても、有効な治療薬はありません。しかし、NAFLと言われた時点で生活習慣を適正にすれば、改善することが期待できます。

≪対策≫
・人間ドック等を受けて肝臓の状態を知りましょう。
・腹部超音波(エコー)やCT、MRIといった画像検査で「脂肪肝」と言われたら、放置せずに生活習慣を見直し、肥満※1であれば食事や運動で解消するように努めましょう。
 半年から1年かけて7~10%減量すると効果があると言われています。
 例) 体重80kg の肥満の方の場合:約5~8kgの減量※1肥満:脂肪組織が過剰に蓄積した状態で、BMI25kg/㎡以上のもの (日本肥満学会による定義)肥満の判定:身長あたりの体重指数:BMI[体重(kg)÷(身長(m)の2乗)]25以上
・基礎疾患がある方は、主治医に相談しましょう。

<食事>
・1日の摂取カロリーを適正※1に保ちましょう。
※1 適正摂取カロリー:厚生労働省 「日本人の食事摂取基準」
   https://www.koseikan.co.jp/revise/up_img/1582175368-794130.pdf
・偏食を避け、ビタミンやミネラルを含む緑黄色野菜や食物繊維を積極的に摂るようにしましょう。
≪参照≫ 農林水産省:早わかり!食事バランスガイド「何を」「どれだけ」を5つの料理グループで表示
     https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/division.html

・砂糖を多く使った菓子や清涼飲料水の摂り過ぎには気をつけましょう。
・バターやラード、ベーコンといった動物性の脂やマーガリン、ショートニングといった加工油脂は控え、紅花油、コーン油、えごま油などの植物性の油を摂るようにしましょう。ただし、こちらも摂り過ぎには注意です。
≪参照≫ 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2020年版)
     https://www.koseikan.co.jp/revise/up_img/1582175368-794130.pdf


<運動>
・1週間に150分以上(1日換算で約20分以上)が望ましいとされています。
 1日5分でも10分でも多く身体を動かすように心がけましょう。体内の脂肪を燃焼させるウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動が良いと言われていますが、スクワットや腕立て伏せ・ダンベル体操といった筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行うレジスタンス運動も代謝を上げ、効果があると言われています。いずれも続けることが心です。

【参考文献】
・日本肝臓学会編 NASH・NAFLDの診療ガイド2021, 文光堂
・国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター
  http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/shibousei.html
・日本消化器学会ガイドライン:  
  https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/nafld.html

・e-ヘルスネット:
  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-011.html

  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-033.html

保健師便り

この記事は、神奈川県川崎市高津区にある健診機関「京浜保健衛生協会」が執筆・監修しています。人間ドック/巡回健診/女性のための健診/がん検診など、健診でお悩みの際はお気軽にご相談ください。

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